research content

研究内容

血液・腫瘍内科

1. 抗腫瘍薬の基礎的検討

我々の教室では長年に亘り、白血病のテーラーメイド治療を目指し、基礎研究を展開してきました。特に核酸アナログでは、様々な検討をおこなってきました。急性骨髄性白血病の key drug ピリミジンアナログ、シタラビンをモデルに、がん細胞内 pharmacokinetics と細胞内薬理、分子薬理に基づき、作用機序解明、効果的併用、耐性克服に取り組んできました。シタラビン投与中の患者白血病細胞内シタラビン活性代謝物ならびにDNA内シタラビン転入量の微量定量法を確立し、治療効果との相関を報告しました。感受性規定因子として、分子薬理マーカー、白血病細胞内シチジンキナーゼ/ヌクレオチダーゼ比が、治療効果に関連することを見出しました。また、細胞内薬剤活性化経路賦活を狙った併用(biochemical modulation)、DNA合成期特異的な殺細胞効果を静止期にも発揮させるDNA修復を利用した併用(biological manipulation)を検討し、さらに細胞周期関連分子 aurora kinase などとの併用効果を報告しました。そのほかの核酸アナログ、ジェムシタビン、ネララビン、クロファラビンについても、薬剤作用機序や薬剤耐性機構と克服法について明らかにしました。慢性骨髄性白血病では、2001年よりチロシンキナーゼ阻害薬による治療が標準となりました。しかし、分子標的薬も既存の伝統的抗がん薬同様、薬物濃度、細胞内作用機序、耐性機序解明、耐性克服といった検討が必要です。イマチニブ耐性機序として、遺伝子変異と遺伝子増幅の関与を解明し、その耐性克服を検討しました。骨髄異形成症候群(MDS)は、高齢者に発症する前白血病状態です。MDSの病態の最も特徴的なもののひとつに、エピジェネティック異常があります。脱メチル化薬アザシチジンは、MDSの生存を延長させた唯一の薬剤ですが、その作用メカニズムならびに標的遺伝子はいまだ解明されていません。デシタビン存在下での培養MDS細胞の遺伝子発現、ならびに遺伝子メチル化の変化について網羅的に検討し、薬剤の標的/薬剤感受性を検討しています。さらに、CPX-351の既存薬との薬理学的メカニズムの相違と抗腫瘍効果を検討しています。リンパ性白血病に対するイノツズマブオゾガミシンではDNA修復損傷阻害による抗腫瘍効果の増強を提案しました。悪性リンパ腫においては、新規メトトレキサート誘導体、フォロデシン、プララトレキサートの作用機序と耐性解明を行い、現在ダリナパルシンについて検討中です。

2. 腫瘍崩壊症候群の新しいリスク別治療指針の確立

悪性腫瘍の化学療法開始直後には、がん細胞が急速に崩壊し、細胞からの逸脱物質により高尿酸血症、高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症、代謝性アシドーシスなどを生じ、腎不全さらには多臓器不全から死に至ることがあります。この病態を腫瘍崩壊症候群(TLS)といい、oncologic emergencyのひとつになります。TLSの適切なマネジメントは、初回導入療法の成功の可否に関わる重要な課題です。本研究では、キサンチンオキシダーゼ阻害薬と遺伝子組み換えウリカーゼの至適投与に基づく腫瘍崩壊症候群の、よりよいマネジメントを確立することを目指しています。また、TLSの重症度は、細胞あたりの逸脱物質含有量と、単位時間あたりの細胞崩壊量ならびに細胞崩壊様式に規定されると考えられます。TLS病態制御を細胞レベルでの分子マーカーについて国立がん研究センター鶴岡連携研究拠点牧野嶋チームとの共同研究によりメタボローム解析を行っています。

3. PAX‑BM study:骨髄クロット前処理の標準化によるCGP普及への貢献

近年、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)骨髄クロット由来のDNA・RNA品質不良が、造血器腫瘍における包括的ゲノムプロファイリング(CGP)の実施を妨げる大きな障壁となっています。そこで我々はBML社と共同で前向きコホート研究「PAX‑BM study」を立ち上げ、PAXgene Tissue System®を用いた骨髄クロットの乾燥・固定条件を多施設で検討し、汎用性の高い前処理ワークフローを確立することを目指します。本研究により、高品質核酸の安定供給を可能とし、CGP検査の再穿刺回避や患者負担の軽減、ひいては血液がん診療における個別化治療の一層の推進を図ります。

4. TREADプロジェクト:多施設後ろ向き臨床アウトカム解析

Tokushukai Real‑World Data(TREAD)プロジェクトに参画し、全国の連携施設から集積したDPC・電子カルテ情報を横断的に解析しています。対象は非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、胆道がん、乳がん・リンパ腫など多岐にわたり、化学療法・分子標的治療・免疫チェックポイント阻害薬の適応状況、副作用発現率、生存・再発パターンなどを系統的に検証。これまでに10編を超える査読論文を発表し、現在も心血管イベント解析やCOVID‑19影響調査など新規テーマで多施設共同研究を継続しています。本プロジェクトは日本学術振興会科研費(24K13480)の支援を受けています。

そのほか

造血器悪性腫瘍における制吐療法など支持療法の最適化についても検討しています。更に、骨髄異形成症候群や白血病など血液疾患の骨髄の状態を福井大学高エネルギー医学研究センターとの共同研究でFLT-PETを用いて画像解析を行い、新知見を発表しています。